田舎者Yの日記

定年退職して農業に従事している者のブログ

(海外からスパムコメントが続きましたので、しばらくコメントは承認制にします。)

非農家の戯言

 専業農家の義理の父母と同居するようになって十年以上が過ぎた。サラリーマン家庭に育った私は、最初は自然や新鮮な農作物に感動したが、最近は嫌なところや農村の抱える問題などが気になってきた。嫌なところは世間が狭く人間関係が固定化されてしまう傾向がある点など。

 私は専業農家の同居人に過ぎず農家ではないので非農家だ。農村地帯では農家でない人をこう呼ぶ。いまだにこの「非(ひ)」には抵抗を覚える。


 一方で、専業農家を続けることも最近では難しいようだ。農家は言うまでもなく個人事業主であり、その事業(農業)を継続していくには努力や体力だけではダメだと、傍で見ていて思うようになった。農家にもそれなりの計画性やら分析力がないといけないんではないかな、と思えてきた。実際、見通しを誤って資金繰りに困り、農家をやめて近所の工場などに働きに出る人や借金でどうにもならない状態になっている人も見かける。

  以前、私の義父に農薬の薄め方について聞きに来た方がいた。ある農薬で200Lの1000倍希釈液を作るには農薬を何mL入れれば良いのか、と言った具合。早見表とかあるようなのだが、数値が表に出ていない半端な数字になるとわからなくなってしまうらしい。義父に言わせれば、まだ聞きに来るのは良いほう、おそらく適当にやっている者もいるんじゃないか、とも。
(検索したら農薬希釈に関する AndroidiOS のアプリもあった。若手農家はこういうのを使う人もいるだろうが、高齢者には無理か)

 

(追記)農薬の使用に関しては5,6年くらい前から非常に厳しいものとなっている。農産物の残留農薬が測定され違反があった場合は出荷停止などの厳しい措置がある。それで焦ってこの人は聞きに来たということ。よくわからない人はおそらく正規の濃度よりも薄めに使っているのだろう、との話だった。虫などが十分に殺傷できないと生育も悪く、出荷しても低価格の「B品」だらけ、ということになってしまう。

 

 農薬の濃度計算にも事欠く人(老人)が耕作資材や種苗、肥料をきちんと発注し、相場の変化も予想しなから作付けを計画するとは到底思えない。数十年前は天候不順などで野菜価格が高騰し「白菜で御殿を建てた」なんて話もあったようだが、最近は輸送技術の発達で遠くの土地から運んできたり、場合によっては価格高騰時に緊急輸入をしたりと、昔ほどには農産物も値段が高くならなくなってきたそうだ。消費者としてはなかなか実感できないが、それでも昭和の時代と比べれば確実に農産物の市場価格変動の幅は減少している。

 

 そこで目に止まったのがTPPを受けてのこのニュースである。

www.nikkei.com

財務省は4日、財政制度等審議会財務相の諮問機関)を開き、農業の生産性向上策を議論した。生産が消費を上回るコメについて、収益性の高い野菜に生産を転換するよう提言した。農道や水路を整備する「土地改良予算」はコスト削減を前提とする農家に限って配分すべきだとした。

 そう簡単に転作がうまく行くとは思えないのだが。おそらくは多くの農家が農業を離れるかもしれない。私は田舎とはいえ関東地方に住んでいるので仕事を探そうと思えば見つけられなくはないのだが、地方の農家は一体どうすればよいのか。

 

 私は農村地帯に住んでいるので周りにはてなユーザーなんて一人もいない、と思っていたのだが、実は自宅から遠くないところにはてなユーザーの方が一人いる。品の良さそうな御老体なのだが、何回かお会いしてお話をするうちに、この方は年間売上数億円の養鶏場の元経営者だということに気づいた。現在は経営を御子息に譲られて、海外旅行されているような方だ。その方がいつもおっしゃることは「失礼ながら養鶏業は農家ほど政府の保護を受けなかった。厳しい経営環境の中、多くの養鶏場が潰れる一方で少数のファームに集約され、大規模化、省力化が進んだ。そのせいで昔とほとんど変わらない価格で卵が食べられるんですよ」という話だ。

 

 おそらく、しばらくは農家にとって受難の年が続くのだろう、廃業してしまう方も少なからずいるかもしれない。しかし長期的にみれば農業の改革が進み、低価格で大量生産する農家(あるいは農業法人)に収斂されていくのではないか。そうなるといずれは補助制度も軽減され、農業は産業として自立していくのかもしれない。その恩恵を受けられる人は限られた人数の人かも知れないが。

 以前もこのブログに書いた記憶があるのだが、仕事で知り合ったニュージーランド人に「なぜ日本は農業製品をもっと輸出しないのだ」と聞かれたことがあった。そのときは価格競争に勝てないから、と答えたと思うのだが、零細な農家が多すぎることが産業としての独立性、国際競争力を削いでいるんだろうなと思い始めたものだった。
 TPP締結により戦後の農地改革の揺れ戻しが起こるんだろうな、と個人的には漠然と考えているのだが、この話はまたの機会に書いてみたい。