家のまわりを田圃や畑に囲まれているので私は田舎暮らしを標榜しているが、(辛うじて)埼玉県内であるので、家から都心へ電車で2時間弱であったりもする。本当はちっとも田舎ではないのかもしれない。
そんな場所に住んでいるため、年に数回(おそらく6回くらい)は都心へ行くことがある。しかしこの8月は所用があって3回も!上京してしまった。
上京していつも思うことは女性が綺麗だということと、いろいろなお店があって楽しそうだな、ということだ。特に都会の本屋は感心する。田舎の本屋はどこも似たような品揃えだからだ。(正確に言うと街中の本屋さんは工夫しているが、かなり苦戦しているとも思われる。郊外の、駐車場の大きな本屋がどこも似たり寄ったりだ。)
前項にもあるように私はなるべく新刊を買わないようにしているのだが、前々回に上京したときに買ってしまった。私は囲碁が大好きで、なかでも依田紀基九段を尊敬しているからである。彼の著作には食指が動いた。
- 作者: 依田紀基
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2008/06/14
- メディア: 新書
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日本のブログ界には将棋好きが多いような気がする。一方、囲碁への言及は少ないような気がする。この本もなかなか良い出来の本だと思うが、ブロゴスフィアではイマイチ注目度が低い気がする。そもそも依田九段を知る人が少ないのかもしれない。彼は日本国内よりもおそらくは韓国、中国での知名度の方が高いだろう。日本のプロ棋士の中で韓国、中国の棋士と勝負できる数少ない棋士の一人だ。
私が囲碁を習いたての頃は日本の棋士がダントツで強かった。最近では国際棋戦で日本の棋士が勝ち上がることのほうが珍しくなってしまった。
その辺の事情も少し依田さんの本にも書いてあるが、この本の最初のポイントはプロが勝ちつづけるための八つの要素である。カ行ではじまるので依田氏は「八つのK」と言っているが、これは囲碁以外にも共通するものかもしれない。
「感動」、「繰り返し」、「根本から考える」、「工夫を加える」、「感謝」、「健康」、「根気」、そして「虚仮の一念」である。詳しくは本書を読んでほしいが、「虚仮の一念」が自分を含めた現代の日本人にとって一番欠けているものかもしれない。
そして本書の最大の山場は、小学生の頃オール1に近い成績で劣等感の塊だった彼が、「棋才」を見出されて安藤七段の弟子になり、都会で青春時代に女や博打にうつつを抜かしながらも、棋士として大成していく、そのきっかけを如何に掴み取っていったか、という点だろう。
私は数々のタイトルを手にした依田九段しか知らないが、その知られざる一面を知ってますます彼が好きになった。
個人的に本書に対して多少不満なのことが二つある。彼の(おそらくは)恩師でもあろう、藤沢秀行名誉棋聖への言及が少ないことと、女流棋士である(旧姓)原幸子四段とどのように知り合って結婚したか、についてほとんど書いていないことである。彼の生き様を見ていると藤沢名誉棋聖のそれと重なって見える。藤沢先生も非常に破天荒な方だ。もうちょっと藤沢先生とのエピソードがあれば書いてほしかった。(これだけでも一冊の本になるか) 後者については、依田さんの女性の話なども本書には書いてあったので同じ本の中には書きづらかったか。あるいは私的なことで公にする気にならなかったか。どちらにせよファンとしては非常に気になるところでもある。
おそらく忙しい依田さんのことなので次回作は当分先かもしれないが、また著作物が出れば買って読んでみたいものだ。